CLAMP原作「ツバサクロニクル」「HoLic」の二次創作置き場です。
原作者および関係各所には何の関係もありません。
BL指向ですが、18禁などはありません。
カップリングは黒×小、小×サクが中心です。
目標は『エロの無いBL』です(笑)
でもやっぱりだめだ、という方はそのままブラウザを閉じてください。
ふくろうの啼く夜に。・27
 離陸の時、気圧変化が堪えたのだろう。その眉根に皺が寄った。院長が手配してくれたおかげで、おそらくは二度と乗る事の無いであろうファーストクラスのゆったりとしたシートの上で、その手がキュ、と力を込めて握り締められている。隣に座っていながら何の手助けも出来ない――小龍はふと、哀しくなった。
(この苦しみを与えたのは、俺なのに)
 自分さえ犯罪に巻き込まれなければ。木材の買い付けに行かなければ。こんな事態は起こらなかっただろうに――言ってせん無い事とはいえ、後悔の念は離れない。
「……お前のせいじゃねぇ」
 小さく、ぼそりと。目を閉じたままかすかに紡がれた言葉。小龍の葛藤を見抜いたのか。やがてシートベルトを外してよいとの合図があった。小龍が外すと、大きく息を吐き、ぐったりとしたように背もたれに身を預けている。リクライニングさせ、毛布を肩までかけた。怪我人である旨を既に連絡してあるため、スタッフもそういう対応をしてくる。介助をする小龍を看護士か何かと思っているようだ。やがて供された食事だが、黒鋼は半分も食べなかった。
「食べないともたない」
「解っている」
 普段黒鋼はよほどの事が無い限り食事を残すような事はしない。一緒のメニューを食べた小龍は何の異常も感じなかったから、相当状態がよくないのだろう。後からでもつまめるようにパンにサンドイッチのように挟んでペーパーに包んで手元に残した。用を足し、あとは『寝る』と一言だけつぶやいて黒鋼は眠りに落ちた。到着まではまだ何時間もある。本を広げたりしたが、退屈な事この上ない。小龍も寝る事に決めた。ちょっと額に手を当ててみたが、発熱はしていないようだ。軽く脈を取ってみたがさほど異常は見られない。そっとその手を毛布の中に戻し、小龍もシートを倒した。黒鋼の肩が冷えるとよくないのでさらに毛布を引き上げ、自分も包まって丸くなる。とはいえせっかくのファーストクラス、実はのびのびと足を伸ばして寝ていたりもする。
(……!)
 毛布の下。外からはひじ置があったりしてそうとは解らない。だが確かに今、小龍の手はしっかりと黒鋼の手に包み込まれていた。
(……弱い)
 握る力が、弱い。黒鋼自身の回復レベルをそのまま現しているようだ。甲に重ねられた手、小龍はすい、と引き抜いた。
「……」
 無言で見詰めてくる紅い目。小龍は何も言わず、今度は逆に自分が黒鋼の大きな手の上に乗せた。そのままほんの少し、指に力を込める。黒鋼の手は本当に大きくて、完全に包み込む事は無理だった。
(俺が、護る)
 今度は自分が。この傷つき果てた優しくも愛しい人を。そのまま眠った振りをしていると、自分の手の中で黒鋼の手がくるりと回転した。まるで握手をするように掌同士が合わさる。そこからじわり、と温かさが伝わってきた。

 もう、放さないから。
 もう、離れないから。

 温もりに包まれるかのように、小龍もまた眠りの淵へ落ちていった。



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お知らせです。


今までご愛読いただきましたが、次回更新(最終話)をもってこのサイトを閉鎖する事にしました。理由はプライベートが忙しくなりすぎて、ここを放置し続ける事が苦しかったから。もちろんこれからも黒様と小龍&小狼、そしてさくらちゃんを愛し続ける事に変わりはありませんが、自分なりのけじめをつけたいと思います。8月中に更新、その後倉庫化とし、10月31日で完全閉鎖とします。今までご愛読くださいまして本当にありがとうございました。あと1話、全力で頑張ります。

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 14:54 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・26
 普段からそれなりに鍛えていたおかげだったかもしれない。黒鋼は目覚しい回復振りを見せ、二ヶ月後には退院許可が降りるまでになった。もちろんまだ包帯は巻かれ、コルセットが巻かれてはいる。それでも外に出て、しかも帰国できるとなれば喜びもひとしおだ。
「大げさなんだよ」
「無理したら元の木阿弥だから」
 一切を無視して強引に車椅子に座らされた。眉間に皺を寄せて見せても馬耳東風。一部始終を見ていたエンジニアはクス、と笑った。
「でも本当に無理しないで下さい。なんと言っても重傷だったんですからね」
「そうそう。ここにこんな風にいること自体が奇跡ですからね」
 さらっと微笑みながら院長に言われると、ほんの少し背筋に冷たいものが走る。あの邪気すら含む微笑みの裏には、どれほどのものを秘めているのだろうか。
(……とりあえず考えたくはないな)
 それは正しい感想だろう。

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「来月には私がそちらに行く事になっています。その時にはもう復帰されているでしょうか?」
「そう願いたいな」
 如何に出張中の事故とはいえ、プライベートで動いている間の出来事だ。本来なら首になってもおかしくはない。事実それを責めるような風であったらしいが、それが一変したのは一通の手紙が届けられたからだった。
『そんなもん、お前、もう英雄だぜ!』
 興奮して電話をかけてきた同僚が電話口でまくし立てたのによると、事前にアポがあり、この国の王より直々に礼状が届けられる、という事だった。要は黒鋼が犠牲となって負傷した事によって悪の存在が明らかになり、国の浄化につながったから、というのがその趣旨らしい。統治こそしないがこの国の王は人々に崇拝されている。その王からの手紙ともなれば会社をあげて歓迎せねばなるまい。しかも郵便配達が届けるわけでもなければましてやメールでもない。予定時刻になって出迎えた重役はそれこそ心臓が止まるほどに驚いたのだ。
『そりゃ誰だって驚くさ! 車寄せに止まったのは黒塗りのリムジンだぜ? しかもさっと赤絨毯が敷かれて降りてきたのがなんと王女だってんだからもう大パニックさ!』
 大慌てで社長以下が顔をそろえ、汗を拭き吹き社長室に案内した。長い黒髪を優美になびかせた王女は、にこやかに手を振りながら一同の歓迎の声に応えたという。そして国王からの親書を手渡し、にこやかな笑顔を崩さずに言ったのだ。

「貴社の大事な社員に瀕死の重傷を負わせてしまったこと、まことに遺憾の極み。幾重にもお詫びを申し上げる事でお許しをいただきとう存じます。会社そのものにも大きな損害となった事でしょう。どうかご寛恕いただき、なおいっそうの親交を深めていただけることを切に願っております。そしてできるなら、これからも我が国へ出張の際にはぜひ彼に来ていただきたい、と父なる王は申しております」

 どうにかこうにか王女を送り出した社内は騒然となった。直ちに緊急重役会議が開かれる。実際黒鋼への減給・退職勧告などが既に決まっていた。しかしそれを実行する訳には行かない。もし黒鋼をクビにしたと知れれば、あの国での取引はもう二度と出来ないだろう。結局黒鋼への処分は取り消されることになった。
「もちろん俺としても助かる話だ」
 このご時世、職を失うのは出来れば避けたい。そしてそれは回避された。帰国してもすぐには元通りに勤務する事は出来まい。それでも職が保障された形になったのはラッキーな事だった。
「必ず来ます。これからもどうぞよろしく」
「帰られたらメールを下さい」
「解りました」
 がっちりと、しかし少しはばかってエンジニアは握手をした。黒鋼も少し頼りないくらいの力ではあるがしっかりと握り返す。お互いの顔に笑みが零れた。


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この亀更新にもかかわらず拍手して下さる方々……あなた方はネ申です……!! ありがとうございます!

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 11:35 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・25
 全ての質問に明瞭な答を返した。あらゆる状況説明は正確で、それは小龍の記憶が完全に戻った事をはっきりと示してる。
「ありがたい。本当にありがたいです。これほどの証拠があれば、かなりの事ができますから」
 蒼軌 征一狼は手放しで賞賛した。立ち上がってがっしりと握手をする。
「我々に出来る最大限のことをします。ご協力ありがとうございました」
「これでもういいですか?」
「はい。どうぞご自由になさってください。ただし身辺には気をつけて」
 最大のキーマンとも言える存在、犯罪者たちにとっては目の上のたんこぶ以外の何物でもない。小龍は頭を下げ、次いで院長に向き直った。
「その……黒鋼さんの所に行きたいんだが」
 ここは大使館。行きは車で直行だったが、帰りは徒歩だ。しかも黒鋼が入院している病院の名前を小龍は知らない。弟に来てもらいます、と院長はにこやかに請け負った。その言葉どおり、あのエンジニアが門の前に来たという連絡が入った。当然中には入れないから外で待機だ。改めて蒼軌 征一狼に別れを告げ、小龍と院長は外に出た。
「まったく人をこき使うんだから」
 エンジニアは苦笑いをする。彼だって仕事があったはずなのだ。院長はといえば、そ知らぬ顔でニコニコしている。
「そうそう、病院から連絡がありましたよ。彼の意識が戻ったそうです。一般病棟ですが個室に移ったそうですよ」
「……それは良かった」
 大部屋では何かあったとき同室の患者に迷惑がかかる。料金その他を考えても、個室の方がメリットは大きかった。やがて病院の駐車場に車は滑り込む。エンジニアから聞いた病室ナンバーを探して小龍は早足で病院内を巡った。廊下は走らない、などという最低限の事は守ってはいる。しかし心は逸り、どうにも先へ先へと駆り立てるのだ。
 たどり着いた部屋は、ナースステーションに近い場所にあった。ICUから出たばかりだからそれも当然の措置だし、個室の患者は必然的にケアの度合いが高くなるという事から考えても然るべき位置だった。ノックに対する答はなかったが、小龍はそっとドアを開けた。
「……」
 ベッドに横たわるその顔には疲れたような色が見える。腕には点滴の管がつながれ、鼻には酸素を送り込むように細い管がセットされていた。躊躇いながら、そっと手を伸ばす。指先がかすかにその頬に触れた。

「……怪我はなかったか」

 低く小さいが、しかしはっきりした声。驚いて見れば紅い瞳が確かな光を宿してこちらを見ている。何かを言おうとしたが、どうしても言葉が出てこない。ただコクン、と頷く事しか出来なかった。
「……それなら、良かった」
 それ以上の言葉が流れてこない。紅い瞳は閉じられ、しかし口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。小龍はそっと、本当にそっと、その首元に顔を埋めた。



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なんと三週間ぶりな……!(約一ヶ月、とは絶対に言わない……!←無駄な抵抗)
それにも拘らず拍手してくださった皆様、本当にありがとうございました!
もうちょっとで完結します、頑張ります!

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 15:34 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・24
 蒼軌 征一狼は言った。
「彼はとても怪しいと注目されていたのです。しかし巧みに証拠を掴ませない。なので決定打が無く、我々は歯噛みするばかりでした。小龍さん、貴方の『記憶』は何物にも代えがたい『証拠』です。事情聴取にご協力願えますか?」
 小龍としては頷く以外に選択肢が無い。そもそもの発端は自分が犯罪に巻き込まれてこの国で消息を絶つ事になった事から始まっている。その結果、自分にとって大切な人が傷つき、生死の境をさまよっている――小龍ならずとも、ここは敵討ちといかないまでも何らかの形で一矢報いたい所だ。
「では我々と一緒にお越しください。大使館に要請して事情聴取の場所を設けさせていただきましたから」
 なんとも根回しのいいことだ。さすがに苦笑が唇に浮かぶ。院長は『ご一緒させていただきますよ』と双方に了解を求めた。
「私の大切な患者ですからね。いくら大使館の中でも危険が無いとは言いきれない」
「結構です。お気の済みますように」
 逆にもし院長が何か悪しきことでもしようものなら、たとえ大使館の中でも蒼軌 征一狼は容赦なく実力を行使するだろう。小龍はひょい、と肩をすくめた。
「行こう。さっさと済ませたい」
 済ませて黒鋼の所に行きたい。たとえ泊り込みは出来なくても、近くに居たい。それを知ってか、蒼軌 征一狼は『ではこちらに』と外に停めていた車へと案内した。

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 車内で小龍は蒼軌 征一狼に『何故大使館に?』と訊ねた。
「理由は二つあります」
 蒼軌 征一狼はにっこりと笑った。院長と違って、邪気がない笑顔だ。
「我々の組織が各国の警察組織とは種類が異なるという事が一つ。もう一つは、この国の警察は残念ながら信頼できない、というのが理由です」
 今度は院長が肩をすくめる番だった。
「いやはや、改めて言われると落ち込みますねぇ。確かに我が国の警察は腐った部分が多い。しかし真面目に一生懸命に職務を全うしようとしている者も多く居るんですよ」
「そのまじめな者たちの全てを食い尽くすほどの腐り具合ですよ」
 蒼軌 征一狼の言葉には容赦が無い。さすがの院長も口をつぐんだ。それは真実であると言っているのと同じだ。小龍はそんな中でよく自分が助かったものだと改めて天に感謝すべきだと思った。そうこうしているうちに車は大使館の門に滑り込む。
「さ、着きましたよ」
 促されて小龍と院長の二人は車を降りた。




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めっきりご無沙汰してしまって・・・・・時間の使い方が下手な自分が悔しいっ!!
そんな亀よりも遅い更新に拍手をありがとうございます・・・・!(感涙)

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 21:39 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・23
「『限りなく黒に近いグレー』、でしてね」

 院長はサーバーからコーヒーをカップに注いだ。大き目のマグカップにそれはなみなみと注がれる。
「どこの世界、どの場合にも『証拠』というものは必要です。有形無形を問わずね。まあ色々な人間関係やらその他諸々が複合して証拠をつかませずにいたんですが」
 こく、と飲んで、『ちょっと薄かったですかね』と顔をしかめた。
「これくらいがちょうどいい。それで無くても胃が痛い」
「おやそれは大変だ。胃潰瘍の薬を出しましょうか?」
「結構。余計に酷くなりそうだ」
「言いますねぇ」
 ニコリと笑うその顔からにじみ出る邪気のようなものは何なのだろうか。しかもそれを自覚しているかどうか――。
(たぶん自覚しているな)
 それは確信だった。


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 『犯罪現場』に『犯罪者』として存在していた――署長を小龍はそう言って断罪した。仮面のように張り付いた笑顔で、署長は『何のことですかさっぱり』とか、『記憶が混乱を?』とか、いかにもお手上げだというゼスチャーとかをしてみせる。しかしそれでもなお氷のように鋭い視線が変わらないのを見て、署長は徐々にその笑顔を消し、険しい顔つきになっていった。
「人間違いだとはいえ、無実の者に罪を着せるのは、たとえ一般市民といえども許されない事ですな」
「お前はそこにいた。俺ははっきりと覚えている」
「だから」
「俺がお前と会うのは『その現場で見た』以来だ」
 つまり記憶をなくしてからどこかで出会ったのではないのだと。記憶のすり替えは行われていない、とはっきりと明言した。署長が何かを言おうとした――。
「続きはしかるべき場所でいたしましょう」
 何時の間に来たのだろうか。紳士然とした男が声をかけてきた。しかし小龍はその男の『強さ』を瞬時で見抜いた。
(この男……鍛えてある)
 その背後にいた屈強そうな男たちが署長を有無を言わせず引きずっていった。それを見送って、紳士は振り向いた。
「私、国際警察から参りました蒼軌 征一狼と申します。この度はご協力に感謝します」
 眼鏡の奥の柔和の瞳は、しかし鋭い輝きに満ちていた。



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拍手ありがとうございます!

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 21:43 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・22
 やがて手術中の赤いランプが消えた。はっとして見上げる小龍の目の前でドアが開く。思わず立ち上がったその目の前を、ストレッチャーに乗せられた黒鋼が運ばれていく。酸素マスク、何本もの点滴……小龍は拳を握り締めた。
「まずはICUです。意識が戻ってから一般病棟、と言う流れになります」
「よろしくお願いします」
 無反応な小龍に代わってエンジニアが頭を下げた。小龍はただ黒鋼が運ばれていったほうを見詰めたまま立ち尽くしている。
「小龍さん。ICUだと病院での泊まりこみができません。ここはいったん『ホーム』に戻りましょう。大丈夫、ここからなら走ってもそんなに時間はかからない」
「……」
「信じましょう、黒鋼さんの未来を」
 ぽん、と肩を叩かれて、小龍は力なくうなづいた。そのまま病院をあとにする。『ホーム』に戻れば、現場検証などが終わったのだろう、警察関係と思しき者たちがぞろぞろと出てきたところだった。
「どうだい」
「手術は終わったよ。ICUに収容された」
「そうか。何かあったらすぐ連絡をくれるように頼んである」
「それなら安心だね」
 院長とエンジニアは頷きあった。小龍は大使館員らしき男にいくつか質問されている。しかし記憶も実際にはほとんど戻っていないようで、首を少しかしげたままだった。
「うーん、『彼』を示すものをほとんど思い出せていませんね。もう少し時間がかかるでしょうか」
 大使館としては、やはり小龍のパスポートの再発行や彼の人道的保護などが急務なのだろう。いかにも困ったかのようにポリポリと頭をかいている。
「まあまずは今回の犯人たちをじっくり締め上げて背後の組織を追及します。そこから始めましょう」
 警察の署長だろうか、小太りの男が院長に進言した。そのオーバーなゼスチャーにふと、小龍の眉が顰められる。
「そうですね。小さい悪事も大きな悪事に繋がるでしょう。ここは一つ、奮起を期待しております」
「お任せください」
 胸に手を当てて笑って見せた署長の動きがぴた、と止まった。その背後、射抜くような冷たい視線の小龍が立っている。
「小龍さん?」
 エンジニアが声をかけた。
「その……生ぬるい、と思わないで下さい。警察も証拠が少ない中で一生懸命やってくださっているんですから」
 エンジニアは苦笑いした。睨み付けるのは、黒鋼を傷つけた者を許さないという意思の表れなのだろう。なだめるつもりでかけた言葉だったが。
「そいつに何が出来る。出来るとしたら事件のもみ消しぐらいだ」
「小龍さん、それは言いすぎですよ」
「確かに微力ではありますが、これでも……」
 署長は思わず苦笑した。気持ちが昂っているのだろうと簡単に予想できる。なだめすかすのもまた必要な事だ――院長が口を開こうとしたそのとき。

「お前は俺を『完全に』殺すべきだったな。『あの時』取引現場にいた男たち……その中に確かに居たな、お前」

 言葉と視線は銃弾以上の鋭さと強さで署長を貫いていった。





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すっかり更新が遅くなってしまいました!予約投稿を設定したつもりが設定できていなかったというダメっぷり。まったくもってお恥ずかしい(>_<)
拍手もたくさんありがとうございました!

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 20:54 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・21
 ドアを開けた小龍の耳に響いたのは、一発の銃声。本当は怒声や物が壊れる音などもあったはずなのに、なぜかそれだけが耳に深く鋭く突き刺さった。
 ゆら、と。
 大きな身体が崩れ落ちていく。一瞬自分を見た紅い瞳に宿った光が何であったのか――それを思考することは出来なかった。いや、それだけではない。あらゆる『思考』と呼ばれるものが一切全て、その活動を停止していた。

 ――時間さえも。

 一歩足を踏み入れる。その目は、床に横たわる黒い影を見詰めたままだ。呆然とした表情――そういった表情としか言いようがなかった――がその顔に張り付いている。盗賊の銃口が小龍の方に狙いを定めた。
 一瞬。
 誰もその動きを判別できなかった。かろうじて理解できたのは、盗賊の顔が驚愕に彩られた事。そしてその手にあるはずの銃がくるくると回転しながら宙を舞っている事だった。
「何……」
 それは誰の言葉だったのか。目にも留まらぬ早業で一閃した足は、見事に落下してきた銃をバラバラに粉砕した。その足技のキレに、盗賊たちが思わず後ずさりする。形勢は逆転した。院長とエンジニアはすかさず盗賊に飛び掛る。盗賊たちは全部で五人、残る三人はこれまた一瞬で地にはいつくばった。口から泡を吹いている者もいる。
「……」
 そろそろと手を伸ばす。床に倒れ付した黒鋼は、ぴくりとも動かない。小龍はゆっくりと、いや非常にのろのろした動きで頭を抱えた。そのまま天を振り仰ぐ。

「あああぁ――っ!」

 それは、まさに獣の叫びそのものだった。


――――――――――――――― * ―――――――――――――――

 黙然と座し、顔を伏せたまま動かない。病院の廊下でただただ小龍は時が過ぎ去るのをじっと待っていた。
「残念ですが、ここには相応の設備がありません」
 元々が『ホーム』、病院とは一線を画する所だ。救急車で少し離れた所にある総合病院に黒鋼は担ぎ込まれた。手術中の赤いランプが点って一体何時間経っただろうか。院長はホームの患者たちのケアのために残り、ここにはエンジニアが付き添ってきた。しかし小龍には、その存在は認識されていないかのようだった。エンジニアはコホン、と小さく咳払いをする。
「小龍さん……でしたよね。思い出せたんですか?」
 エンジニアの質問に、小龍はかすかに頷いた。
「全部……じゃないかもしれない。でも少なくともあの人の事は思い出せた」
 その顔は、そして声は暗かった。何故撃たれたのか、という警察の質問に、院長が『盗賊を止めようとした』と話し、続いて『彼にとっても大切なものが奪われかけたから』と説明しつつ自分が彫ったふくろうの置物を示していたからだ。
(俺があんなものを作ったばかりに)
 しかしエンジニアはかすかに笑って小龍に言った。
「貴方があれを作ったからこそ、私は彼のネクタイピンに気づきました。そう、これはきっと『必然』なのでしょう」
「こんな必然なんて――要らない」
 頭を振る小龍にエンジニアは答えず、そのまま天井を振り仰いだ。蛍光灯の光が柔らかく廊下を照らしている。

「好きなんですね――彼のこと」

 小龍は小さく、しかし確かに頷いた。


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拍手ありがとうございます! あと少し!!


| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 15:08 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・20
 連れては帰りたい。しかし小龍自身がそれを是としないだろう。そのあたりがまず一つの関門だった。
「転院、という事でなら納得してくれるでしょうけど、別の国へ行く理由が今ひとつ薄い。何か持病があってその治療のためというならまだ簡単なんですが」
 病院長――桜塚星史郎はちょっと眉を顰めて淡々と続けた。
「もちろん病名の捏造は簡単です」
 それも医師としてはどうかと思われる発言であったが。
「でも受け入れ先の病院の手配が出来ません。それほどのネットワークを持っていないのが現状です。ましてや記憶喪失の患者で、犯罪者たちからマークされているとあってはね」
「え?!」
 黒鋼は思わず腰を浮かせた。
「マークされているって……ではまだ命を?」
「記憶喪失であることが解っているのでしょう、まだ手は出してはきていません。でも始終見張られているのは確かです。今こうして私たちが話している、という事も筒抜けでしょう。盗聴器の類いはありませんが、本当は貴方をここに呼ぶのは危険なことなのです」
 事情を『知ってしまった』者として、今度は黒鋼が狙われるかもしれない。桜塚院長はその危険性を示唆した。黒鋼は思わず唸った。しかし決然と言い返す。
「……俺は構わない。あいつの記憶を取り戻す事のほうが先決だ」
「貴方ならそう言うと思っていましたよ」
 その満面の笑みは何を物語るのか。院長はコーヒーをもう一杯淹れた。そして内線電話で、小龍に院長室に来るように伝える。
 しばらくしてこんこん、とノックの音がした。
「早いですね。どうぞ」
 院長の諾を受けてドアが開いた――。

「動くな! 全員手を上げろ!」

 バラバラと数人の男達がなだれ込んできた。いずれも布で口元を覆っている――典型的な強盗スタイルだ。
「何を――」
「しっ。いけません」
 エンジニアが黒鋼を制した。
「何もしなければ彼らは命までは取りません。反撃を受ける事を恐れて近づいて身体検査をする事すらしない。この国に多いコソ泥です。彼らの目当ては金品だけ。この部屋のめぼしいものを盗ったらすぐに消えるはずです。だから、ここは」
「……わかった」
 何度も同じ目にあっているのだろう。エンジニアも院長も落ち着き払っている。仕方無しに黒鋼も両手を上げて壁際に並んだ。盗賊たちは威嚇する者と作業する者に分かれている。作業組は持参した袋に手あたり次第にその辺のものを突っ込み始めた。置時計やペン立て、ブックウェイト。時計は解るとしてもブックウェイトはどう見てもただの石ころだ。しかし今は吟味などしない。時間の勝負、というところだろうか。次に棚の物を次々に入れていく。
「……!」
 ふくろう。小龍の作品であるふくろうが無造作に袋に突っ込まれた。途端に黒鋼の頭にカッと血が上る。
「待て! それを持って行くな!」
 袋詰めしている盗賊に飛び掛った。不意をつかれた盗賊は袋を取り落とす。それをばっと奪い取った。何事か他の盗賊も叫んでいる。残念ながら黒鋼には理解できない言語のようだった。

 ドアが開くのと、一発の銃声が響くのは、まったく同時に起こったことだった。



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拍手ありがとうございます!

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 15:41 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・19
 朝九時きっかりにエンジニアは迎えに来た。黒鋼は朝食もチェックアウトも済ませてロビーに待っていた。今日の夕方の便でこの国を発つ。チェックアウトはしておかなくてはならなかった。
「では行きましょう」
 タクシーを呼び、二人は乗り込んだ。言葉すくなに『ホーム』へ向かう。今日はエンジニアの兄である病院の院長と会う事になっている。
(これで何か解決策が見えるといいが)
 一刻も早く連れて帰りたい。小狼に会えば、小龍の記憶も戻るかもしれない。しかし今の状態の小龍に会わせるのも酷な様な気がした。小狼は心が優しい。その分大きく傷つく事だろう。そして記憶を失っているとはいえ、小龍も元々は心優しい青年、心に大きな傷を残してしまう事になりかねない。

 いかにして、記憶を取り戻し、心傷つくレベルを最小限にとどめるか。

 自分ひとりではどうにも解決策が見えてこない。しかし三人寄れば文殊の知恵とやら、もしかしたらよい案が出るかもしれない。それに期待するしかないのが現状だった。
「お待たせしました。こちらです」
 タクシーを降り、エンジニアが案内したのは別棟だった。察するに院長の家かスタッフエリアといったところだろう。ノックして扉を開けると、中に居た人物が立ち上がった。
「ようこそ。さあどうぞお入りください」
 手際よくコーヒーを淹れてくれる。差し出された名刺には『SEISIRO SAKURADUKA』とあった。
「さて、もう単刀直入に本題に入りましょう。時間がないのでしたよね?」
 それは飛行機の時間の事を指している。黒鋼は頷いた。院長は話し始めた。
「よく一般的にいわれている事ですが、記憶を取り戻すにはその原因となった状態を再現する事が有効であるといわれています。しかし彼の場合、まさかもう一度瀕死の重傷を負わせて海に放り込むなんて事は出来ません。時間はかかりますが、元々居た環境に戻す事も一つの手段です」
「できるならそうしたい。双子の弟も待っている。……しかし『今の』あいつがそれを受け入れてくれるだろうか?」
 あの冷酷ともいえるその視線、その口調。彼の心は完全に閉ざされ、差し伸べられた手を拒んでいる。決定打を持たない自分が悔しくて、黒鋼はただ手を握り締めた。


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拍手ありがとうございました!

| パラレル・ふくろうの啼く夜に。 | 21:29 | comments(0) | - |
ふくろうの啼く夜に。・18
 とりあえず今夜は帰ろう、という事で、後ろ髪を引かれながら部屋をあとにした。背中に視線が突き刺さるような気配がする。呼んでおいたのか、行きとは違ったタクシーが待っていた。
「『彼』が貴方の探している人で間違いありませんか?」
 エンジニアの問いに、黒鋼はあいまいに頷いた。小さく聞こえぬほどの声で『一体何が……』と呟く。
「実は恥ずかしながら、わが国には裏の社会というものがありまして、そこではある稀少物質が取引されているのです。その取引はおもに新聞広告の形で示され、隠蔽する為の正規の取引も行われるのです。例えば『家売ります』みたいな広告を出したら、本当にその家は売りに出されていて、でもその室内では闇の取引をしている、みたいな」
「なるほど……」
「あるとき広告が出た。木材の取引です。実際良い木材が取引されたようです。そしてもちろん闇の取引も行われた」
「……」
「しかし、普段と違った事があった。『外国から木材の買い付けに来た』者が居たのです」
 本来は国内でのみ行われるもの。当然なあなあな部分もあっただろうし、闇取引へのブラックな部分もあわせ持っていた。しかしそこに、外部からの闖入者が現れた。現場に混乱と緊張が走ったことは容易に予想が出来る。
「木材の取引はスムーズに行われたようです。そこで終わっていればよかった。……しかし『彼』は、賢しすぎ、カンが良すぎた。『彼』は闇に気づいてしまったのです」
 そういった場合、悪人たちが取る道はただ一つ。『証拠隠滅』である。臭い物に蓋、死人に口なし。
「大使館が情報をつかめなかったのは、警察の上層部に関係者が居たってことですよ」
 小龍の消息を伝えれば、自分の首が危うくなる。悪の道に染まった者が、そのようなリスクを冒してまで『正しい働き』をするはずがない。そのような経過を辿って小龍の消息は完全に『消えた』のだ。
「小龍、というのですか? 『彼』は襲撃を受け、瀕死の重傷を負いました。さらに重石をつけて海に沈められたんです。……でもたまたまですが、重石をつけていたロープが切れた。彼自身気を失っていたので、ほとんど水を飲まなかったことも幸いしました。まったくの偶然ながら、この近くの――あ、私の家もこの近くにあるんですが――浜に打ち上げられていて、ここへ担ぎ込まれたんです」
 まさに、天の奇跡。様々な偶然が――いや、『必然』が重なり合って、一つの奇跡を生み出した。
「彼は約一年、眠ったままでした。目覚めた時、記憶をなくしていて……それ以来あの状態なのです。ただ彼自身を探るべくさまざまな事を経験させた結果、木工に非常に卓抜した腕を持っていることがわかりました。今までに彼は何作か作品を作っているんですが、そのモチーフは全て『ふくろう』でした」
「それで俺のタイピンに反応したと?」
「はい。きっとこのふくろうには意味があると思っていました。かつての『彼』に関わる大きなファクターであると。ここの病院長は、実は私の兄でして、そういった関係から『外』との接触の機会が多い私が『彼』に繋がる何かを探す役を負うていたというわけです」
 タクシーが黒鋼の止まっているホテルの前に着いた。躊躇いながら車を降りる。窓を開け、エンジニアは尋ねた。
「明日、いやもう『今日』ですね。飛行機の時間は何時ですか?」
「夕方の四時二十分発です」
「では朝、そうですね、九時にお迎えに参ります。今度は病院長である兄も交えて相談しましょう。『彼』がそういう事に巻き込まれている以上、対応は慎重にしたほうが良い」
「あの……」
 何か聞きたそうな黒鋼に、エンジニアはふっと笑った。
「何でこんなに知っているのか、でしょう? 兄は裏社会のほうにも多少は顔が効くんです。そこで掴んだ情報を付き合わせるとこういう結果が導き出された、ってことなんですよ」
「わかりました。お任せします」
 そういうより他に道はない。やっと掴んだ手がかりを自ら切るほど強くもない。エンジニアは『では明日九時に』と念押ししてタクシーに出発を告げた。


************************************

頑張れ、黒様!(笑)


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